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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)584号 判決

原告 名鉄協商株式会社

右代表者代表取締役 近藤基郎

右訴訟代理人弁護士 大道寺徹也

同 加藤睦雄

同 光飛田透子

被告 株式会社郷鉄工所

右代表者代表取締役 大森繁夫

右訴訟代理人弁護士 今枝孟

同 高橋美博

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、四億〇九九四万円及びこれに対する平成九年一二月六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  請負契約の民法六四一条に基づく解除

(一) 原告は、被告との間で、平成九年一月一七日、福岡県前原市大字萩の浦四七五番地一所在の前原スーパードーム新築工事に係る次の各工事(以下「前原の新築工事」という。)を、原告を発注者、被告を受注者として、請負代金総額四億〇九九四万円(消費税込み)とする請負契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

(1)  建物部分の工事一式(甲第一号証の一)

代金  一億円

消費税 三〇〇万円

(2)  空調機器、バケット機器の設備工事一式(甲第一号証の二)

代金  一億円

消費税 三〇〇万円

(3)  バッティングシステム機器の設備工事一式(甲第一号証の二)

代金  一億九八〇〇万円

消費税 五九四万円

(二) 原告は、被告に対し、平成九年一月一七日、前原の新築工事と同様に、京都八幡スーパードームの新築工事(甲第一二、一三、一五号証の各一、二、以下「京都の新築工事」という。)及び鹿児島駅構内ゴルフ練習場の新築工事(甲第一〇、一一号証の各一、二、以下「鹿児島の新築工事」という。)についても請負契約を締結し、同年三月一〇日及び二〇日、右三工事の請負代金の前払いとして合計金額一一億九六八六万円の約束手形を振り出し(甲第七号証の一ないし四、以下「本件各手形」という。)、右手形を各支払期日に決済した(甲第二三、二四号証の各一ないし六、第二五、二六号証の各一ないし一五)。

これにより、原告は被告に対し、本件契約に基づき、前原の新築工事の請負代金四億〇九九四万円を前払した。

(三) 本件契約が締結された経緯

(1)  原告は、平成九年一月ころ、カワサキコーポレーション株式会社(以下「カワサキ」という。)から、同社が株式会社岩永組(甲第一四号証、以下「岩永組」という。)より請け負った前原の新築工事ほかについて、従前から原告や被告の売上協力のため行ってきた、いわゆる帳合取引と同様の取引形式をとって取引に介在して欲しい旨の要請を受けた。

原告は、右要請を拒否したところ、カワサキから、既に被告から約束手形の振出交付を受けているが、被告の社内事情のため必要があるので、原告は約束手形の振出しの必要はなく、被告宛の注文書だけを発行して欲しいとの懇請を受けた。そのため、原告は右懇請を信じて、カワサキと被告に協力する意図で、カワサキを経由して被告に注文書を発行交付し、注文請書を受領して、カワサキが岩永組から受注した前原の新築工事、及びカワサキが株式会社ワキタ(以下「ワキタ」という。)から受注した京都の新築工事、並びにカワサキが九鉄工業株式会社(以下「九鉄工業」という。)から受注した鹿児島の新築工事の三工事に介在することになった。

(2)  ところが、その後、被告が態度を豹変し、前記注文書と注文請書の交換により原被告間で取引が成立しているとして、原告に対し、各注文書に記載された工事請負代金の決済文言に従って約束手形を振出交付するように再三求めた。そのため、原告はやむなく、本件各手形を被告に振出交付し、一方、カワサキとの間で注文書と注文請書を交換して、同社から約束手形の振出交付を受けた。

(3)  右のとおり、カワサキと原告、原告と被告、被告とカワサキとの間で循環して成立した各契約(以下、右各契約を併せて「本件循環取引」という。)は、いわゆる介入取引、つけ取引、または帳合取引と称される商社取引である。すなわち、本件循環取引は、カワサキが他社から受注し施工することになっている請負工事について、カワサキには工事代金を前払いすることにより金融を受けさせるため、原告及び被告には売り上げの実績を計上することを目的に、帳合いによって行った介入取引である。

以上のような介入取引の法的構成は、当事者が請負という法形式を選択した以上、その法的形式を尊重して法的効力を判断するべきである。

(4)  仮に、被告がカワサキとの間において、単純な融資の目的等、原告に内密で右介入取引と異なる意図を有していたとしても、被告は、民法九四条二項により、右事情を知らない原告に対し、それを対抗して、本件契約を請負契約でないと主張することはできない。

(四) カワサキは、京都の新築工事と鹿児島の新築工事を実際に施工したが、前原の新築工事を未着工のまま、平成九年一二月一日に不渡手形を出して、自己破産した。その結果、被告が本件契約を履行することは不可能な状況となった。

(五) そのため、原告は被告に対し、請負契約の履行が不可能であるため民法六四一条に基づき平成九年一二月五日配達の内容証明郵便で、本件契約を解除する旨の意思表示をし(甲第一六号証の一、二)、さらに、同一〇年一月二八日付書面で、本件契約を同様に解除する旨の意思表示をした(甲第一八号証の一、二)。

(六) したがって、被告は原告に対し、本件契約が解除されたことによる原状回復として、前払を受けた請負代金四億〇九九四万円を返還しなければならない。

2  不当利得

(一) 仮に、本件契約が請負契約とはされず、原告がカワサキに金融を受けさせる目的で請負契約の形態をもって工事代金の前払いを名目に、被告に対し、本件各手形を振り出したものとしても、右振出行為は、カワサキと岩永組との工事請負契約、及びこれを原因とする原被告間の下請工事請負契約と一体不可分の関係にある。すなわち、原告が被告と本件契約を締結したのは、カワサキと岩永組との間で請負契約が存在する事情のもとに、カワサキがその工事を施工するのに必要な資金を、工事代金の前払いの方法で金融を受けさせるため、カワサキから原告へ約束手形を振出交付し、原告から被告へ約束手形(本件各手形)を振出交付し、被告からカワサキへ約束手形を振出交付したものである。

そして、原告は、被告に対して本件各手形を振出交付する前提として、原告においてカワサキから振出交付を受けた約束手形金債権が将来、岩永組からカワサキに対し支払われる工事代金によって返済されることを予期していたもので、岩永組からの右工事代金が、原告のカワサキに対する右手形債権回収の引き当てになることを、被告も知っていた。

(二) したがって、原告の被告に対する本件各手形の振出行為は、右振出行為と一体不可分で、その原因となったカワサキと岩永組の請負契約が解消されたことにより、その原因関係が当然に解消された。

そうすると、本件契約における本件各手形の振出しは、法律上の原因を欠くことになったから、被告は、不当利得として、受領済みの本件各手形金四億〇九九四万円を返還しなければならない。

3  よって、原告は被告に対し、主位的に民法六四一条の解除による原状回復請求権に基づき、予備的に不当利得返還請求権に基づき、右四億〇九九四万円及びこれに対する解除日の翌日である平成九年一二月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否、及び被告の主張

1(一)  請求原因1(一)は否認する。

(二)  同1(二)のうち、原告が被告に対し、本件各手形を振り出し、各支払期日に決済して、四億〇九九四万円を支払った事実は認めるが、右支払いが本件契約による請負代金の前払いであることは否認する。

(三)  同1(三)の事実は否認する。

(四)  同1(四)のうち、カワサキが自己破産をした事実は認め、その余は否認する。

(五)  同1(五)のうち、原告が被告に平成九年一二月五日配達の内容証明郵便を送付した事実は認め、その余は否認する。

(六)  被告の主張

(1)  本件契約は、平成九年一月一七日、前原の新築工事につき、原告を発注者、被告を受注者とし、請負代金四億〇九九四万円とする工事請負契約を締結した形態を採っているが、右契約は、原告がカワサキに金融を受けさせるための手段としてなされたもので、実質は請負契約ではない。

すなわち、カワサキは、平成九年一月、資金繰りに窮し、原被告に対し融資を申込んだ。被告は、これを断ったところ、カワサキから同八年九月に行った日進、春日の各スーパードーム請負契約の形態と同様の手法で支援してもらえないかと申込まれたので、被告の前に他の大手業者が介入し、その責任において全て行ってくれるならば、協力を検討して良い旨答えた。そのため、カワサキと原告は、実質はカワサキに金融を受けさせる目的で、法形式上、請負契約を締結することを企画した。

(2)  しかし、カワサキと原告が互いに工事を発注するのは不自然であるため、それを回避するため、被告を巻き込んで本件循環取引に組み込んだのであって、被告は、原告の保証のもとに、法形式上、受注者の立場に立ったにすぎない。

具体的には、原告がカワサキから受注した請負工事を被告に発注し、さらに、被告がカワサキに発注し、その間に各々が約束手形を振り出し、カワサキは、被告から振出交付を受けた約束手形の割引等をして金融を受け、被告は、原告から振出交付を受けた約束手形の割引等でカワサキに振り出した右手形の決済をし、原告は、カワサキが前原の新築工事を施工して岩永組から支払われる請負代金で、カワサキから振出交付を受けた約束手形の決済を受けることにより全て清算することが予定されていた。

(3)  したがって、原告の工事代金の前払いの主張は、被告を通じてカワサキに金融を受けさせるため請負代金名下で支払ったものにすぎず、また、原告の主張する介入取引も、法律効果としては、当事者が意図した範囲でその効果を認めるべきであり、それ以上の効果を認めるべきではない。

(4)  本件契約は、カワサキに対し金融を受けさせるのが目的であり、同社に金融を受けさせる目的を達成している以上、右目的の達成した後になって、原告が被告に対し、本件契約が請負契約の形態を採っていることから、民法六四一条により本件契約を解除することは、許されない。

2(一)  請求原因2は否認する。

(二)  法律上の原因を欠くことについて

原告は、カワサキに金融を受けさせる目的で本件各手形を振り出したものあって、工事施工に必要な資金の前払いをしたものではなく、カワサキに対し、被告を通じた融資金の使途を限定させていない。岩永組とカワサキの請負契約は、いわば原告のカワサキに対する貸金の回収の裏付けにすぎず、原告から被告への本件各手形の振出行為と一体不可分の関係にはない。

したがって、カワサキと岩永組の請負契約の解消により、被告の原告からの本件各手形金の取得が、法律上の原因を欠くことにはならない。

(三)  利得について

被告は、原告がカワサキに金融を受けさせる手段の流れの中に組込まれたに過ぎない。そして、被告は、所定の枠組みの中で、平成九年一月二一日、カワサキに対し、支払い明細書(乙第八号証の一、二)に従って、合計金額一一億九一七一万円の約束手形七通を振り出し、その後決済している(各金額、約束手形番号は次のとおり、以下「被告手形七通」という。)。したがって、被告に利得はない。

(1)  平成九年五月三一日満期 小計三億〇九〇〇万円

三億円(A七三一三三)、及び九〇〇万円(A七三一三四)

(2)  平成九年六月三〇日満期 小計三億〇九〇〇万円

三億円(A七三一三五)、及び九〇〇万円(A七三一三六)

(3)  平成九年七月三一日満期 小計五億七三七一万円

五億円(A七三一三七)、五〇〇〇万円(A七三一三八)、及び二三七一万円(A七三一三九)

(四)  因果関係について

被告は、原告の描いた構図の中で行動したにすぎず、仮に被告に本件各手形金の取得による利得が認められても、原告の損失と、被告の利得の間に、因果関係はない。

三  被告の通謀虚偽表示の抗弁(請求原因1に対して)

1  本件契約は、原告がカワサキに金融を得させる目的で締結した。すなわち、カワサキは、岩永組から受注した前原の新築工事を完成させることにより工事代金を入手して自己の資金回転に充てるのが通常であるが、当時のカワサキにとっては、その時間的空隙を待ちきれない急激な資金遍迫があった。そのため、三つの請負契約という外形の本件循環取引を行い、かつ、このうち手形振出については二組分を実行して、カワサキに融資を受けさせた。

2  前原の新築工事に関して、岩永組よりカワサキに本来の請負代金の支払がなされるまでのつなぎ期間に対処するという限度では、カワサキが原告に、原告が被告に、被告がカワサキに各発注し、原告は右各契約について承諾、容認していた。したがって、原告及び被告は、被告が本件契約に基づき前原の新築工事を施工する意思がないのに、その意思があるように仮装するのを合意したことになる。

そうすると、本件契約は民法九四条一項により無効であるから、右無効な本件契約を、原告が請負契約の外形をとっているからと言って民法六四一条により解除することはできない。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりである。

第四当裁判所の判断

一  請求原因1(二)のうち、原告が被告に対し本件各手形を振り出し各支払期日に決済して四億〇九九四万円を支払った事実、同1(四)のうち、カワサキが自己破産した事実、及び同1(五)のうち、原告が被告に平成九年一二月五日配達の内容証明郵便を送付した事実は、当事者間に争いがない。

右争いがない事実と、甲第二一、二二号証、第二八号証の一ないし三、第三二ないし三七号証、乙第二一、二二号証、証人稲山敏則、同田中良治、同河崎省三、同河崎英五の各証言、及び後記各証拠、並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

1  当事者

(一) 原告は、昭和四六年に設立された、各種動産及び工作物のリースに関する事業、スポーツ用品等の販売、土木建築工事の設計監理施工及び請負業等を目的とする資本金三億六〇〇〇万円の商社であり、名古屋鉄道株式会社を中心とする企業グループ(名鉄グループ)の一員である。原告は、工事の建設施工につき、建設業の事業認可を得ていて現実に工事を竣工することも可能であるが、実際には、工事を施工することは殆どなく、受注した工事を一社ないし複数の施工業者に下請発注して、中間請負人として取引に参加する場合が殆どである。

(二) 被告は、昭和二二年に設立され、各種土木建築工事の設計・監理・施工及び請負等を目的とした資本金約六億〇六〇〇万円の株式会社である。

2  本件契約に至るまでの経緯

(一) 原告とカワサキとの間の取引

原告は、昭和六三年、名鉄グループ等からスポーツ施設の施工を請け負い、名古屋市昭和区滝川町一〇番地一所在のカワサキに下請けさせたり、カワサキからスポーツ用施設や用品を仕入れて他に販売したりする取引を開始した。

さらに原告は、原告の売上目標が達成できない場合、カワサキが請負契約を締結しようとしていたり、あるいは、既に工事を施工しているスポーツ関連工事について、カワサキの下請に入ったり、逆にカワサキを下請に入れたりして、カワサキとの間で請負契約の形式で売上げを計上するといった方法で、いわゆる介入取引を行っていた。右介入取引により、原告は、売上げを計上して売上目標を達成し、一・五ないし二パーセントのマージンを取得でき、カワサキは、原告と取引を行うことによる信用を得ていた。

このような介入取引で、原告は、これまでカワサキから少なくとも合計四〇億円以上の売上げ協力を受けていた。そして、原告は、平成九年一月当時、カワサキに対し約一一億円の債権を有していた(甲第二二号証)。

(二) 被告とカワサキとの間の取引

被告は、昭和六二年五月ころ、被告がカワサキにゴルフ場練習場の建設を発注したことから取引を開始し、その後は、被告がカワサキに物品を販売したり、同社から建設等を受注するなどの取引を行うようになっていた。被告も、カワサキとの取引において、原告と同様の形態の介入取引を行っていて、これまで原告よりは少ないものの数一〇億円の売上協力を受けていた。

(三) 原告、被告、カワサキ間の契約

原告と被告は、平成八年九月、カワサキが実際に工事を施工していた日進と春日の各スーパードームエ事(乙第一〇号証の一ないし四)につき、請負契約の形式で、カワサキが原告に発注し、原告が被告に発注し、さらに、被告がカワサキに発注する取引形態の循環取引契約を締結し、合計約一〇億七〇〇〇万円の売上協力を目的とした介入取引を行った。これが原告、被告、カワサキの三者による初めての介入取引であった(甲第二一号証、、乙第二二号証)。

3  本件契約の締結

(一) カワサキは、平成九年一月ころ、同月下旬の手形決済の資金繰りに窮し、原告ないし被告から資金的援助を要請することを計画した。そのため、カワサキの専務取締役である河崎英五(昭和二三年生、以下「河崎専務」という。)は、同月一四日、原告のスポーツ事業部長兼委託事業部長である稲山敏則(昭和二二年生、以下「稲山部長」という。)に対し、約一二億円の融資を依頼した。一方、河崎専務は、同日、被告の代表取締役である大森繁夫及び開発事業部長兼外販部長である田中良治(昭和七年生、以下「田中部長」という。)に対しても、同様に融資を依頼した。

同月一六日、カワサキの代表取締役である河崎省三(昭和二二年生、以下「河崎社長」という。)は、稲山部長と田中部長らにカワサキ本社に来社してもらい、再度、融資の依頼を行った。これに対し、原告の稲山部長は、然るべき企業に元請けとして入ってもらうことが必要であると述べて融資を承諾しなかった。また、被告の田中部長は、以前行った日進や春日の各スーパードーム工事の形態であれば、協力してもよい旨回答した。

そのため、河崎社長が、右同日、塚本商事機械株式会社(以下「塚本商事」という。)の協力を得られる旨を稲山部長に伝えたところ、原告の稲山部長は、カワサキへの融資に協力していくことにした。

(二) その結果、カワサキと原告は、平成九年一月一七日、カワサキが福岡県前原市所在の岩永組から受注していた前原の新築工事(甲第一四号証)、九鉄工業から受注していた鹿児島の新築工事、及び大阪市西区所在のワキタから受注していた京都の新築工事(甲第一五号証の一、二)の三工事について、カワサキから原告へ合計金額一二億〇二〇一万円とする各注文書(甲第八、一〇、一二号証の各一、二)を作成し、さらに原告から被告へ右三工事につき合計金額一一億九六八六万円とする各注文書(甲第九、一一、一三号証の各一、二、乙第一、二号証の各一、第三、四号証の各一、二)を作成した。

なお、カワサキから原告への右各注文書には、支払方法につき、振出日を同年三月一〇日ないし同月二〇日、支払期日を同年五月ないし同年七月の各末日とする約束手形による旨記載され、また、原告から被告への右各注文書には、支払方法につき、振出日を同年一月末日、支払期日を同年五月ないし同年七月の各末日とする約束手形による旨記載されている。

(三) 被告は、河崎社長から、原告からの平成九年一月一七日付け右各注文書を渡されたので、同日付けで、被告から原告への各注文請書を作成し、同月二〇日、原告に交付した(甲第一ないし三号証の各一、二、乙第一ないし四号証の各一、二)。なお、被告から原告への右各注文請書には、支払方法につき、振出日を同年一月末日、支払期日を同年五月ないし同年七月の各末日とする約束手形による旨記載されている。

一方、被告は、同年一月二〇日、カワサキへの各注文書(乙第五ないし七号証の各一)を作成してカワサキに交付し、カワサキは、同日、被告への各注文請書(乙第五ないし七号証の各二)を作成して被告に交付した。なお、被告からカワサキへの右各注文書、及びカワサキから被告への各注文請書には、支払方法について特に記載はない。

そして、被告は、原告から被告宛の同月一七日付け各注文書を信頼して、同月二一日、カワサキに対し、合計金額一一億九一七一万円の被告手形七通を振出交付した(乙第八号証の一、二、第九号証)。

カワサキは、被告手形七通を割り引いて、同年一月下旬の手形決済資金として使用した。

(四) ところが、原告は、平成九年一月二三日ころ、社内で検討した結果、塚本商事が取引に参入する形態では取引に応じられないとして、カワサキに対し、他の商社の介入を要請した。そして、既にカワサキに対し被告手形七通を振り出している被告が、同月二九日ころ、被告宛に作成した右各注文書に従って約束手形(本件各手形)を振出交付するよう要求したのに対し、原告は、同月末日になっても、右手形を振出交付しなかった。

そのため、河崎社長や被告の田中部長が、原告の稲山部長らと折衝した結果、原告は、同年三月三日、右各注文書記載のとおり約束手形を振り出すことを決定し、同月一〇日及び同月二〇日に、支払期日を同年五月ないし同年七月の各末日とする合計金額一一億九六八六万円の約束手形二一通(本件各手形)を被告に振出交付し、各支払期日に決済した(甲第七号証の一ないし四、第二三、二四号証の各一ないし六、第二五、二六号証の各一ないし一五)。

被告は、原告が決済した本件各手形金で、本件循環取引に基づき、カワサキに対し融資目的で振り出していた被告手形七通を、支払期日に決済した。

(五) カワサキは、本件循環取引による融資の返済として、同年三月二〇日、原告に対し、支払期日を同年五月ないし同年七月末日とする合計金額一二億〇二〇一万円の約束手形二六通を振出交付した。

その後、カワサキは、京都及び鹿児島の各新築工事を完成したが、前原の新築工事に着工しなかった。

原告は、同年九月になっても、カワサキが右工事に着工する見込みがなかったため、同月一八日、被告に対し、本件契約を解除する意思表示をして請負代金の返還を求めたが、被告はこれに応じなかった(甲第一六、一八、二九号証の各一、二、第一七号証、第一九号証の一ないし六)。

(六) カワサキは、その後も前原の新築工事に着工することなく、同年一二月一日、事実上倒産し、自己破産を申し立てた(甲第二九号証の一、二)。カワサキは岩永組から請負っていた前原の新築工事を施工していないため、右請負代金の支払を受けることが出来ず、そのため原告も、カワサキから振出交付を受けていた前記手形金の支払を受けられていない。

一方、原告は、カワサキの右倒産により、被告が本件契約を履行することは不可能な状況になったとして、被告に対し、同年一二月五日配達の内容証明郵便で、民法六四一条に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした(甲第一六号証の一、二)。

二  本件契約の性質

1  前記一で認定した事実によると、原告と被告は、平成九年一月一七日、本件契約を、前原の新築工事につき、原告を発注者、被告を受注者、請負代金総額を四億〇九九四万円(消費税込み)とする請負契約として締結したもので、本件契約は、形式的には、請負契約の内容を有するものではあるが、これを実質的にみた場合には、原告と被告がカワサキから金融の依頼を受け、同社に金融を供与する目的のため、カワサキから原告、原告から被告、被告からカワサキにそれぞれ約束手形を振り出し、カワサキが、被告手形七通を割り引いて融資を受け、その後、前原、鹿児島、京都の各新築工事を施工して、その請負代金をもってカワサキから原告に振り出した約束手形を決済することで前記融資の返済を合意した、いわゆる循環取引の一環であると認められる。

そして、前示のとおり、前原の新築工事は、同年一二月一日にカワサキが倒産するまで、カワサキ、原告、被告により一切、施工されていないことも考慮すると、原告と被告が、同年一月一七日に締結した本件契約において、原告が請求原因1(一)、(二)で主張するように、原告が被告との間で前原の新築工事を実際に施工するとの実質的な請負契約を締結し、右請負契約に基づき、原告が被告に対し右工事代金を前払いしたとの事実を認めることはできない。

2  原告は、被告との間で前原の新築工事を施工するとの実質的な請負契約を締結したと主張する。

しかし、前記一の事実によると、原告と被告が前原の新築工事において、自ら作業等を行うことは当初から一切予定されてなく、実際の各工事の施工は、専らカワサキが行うこととされていて、原告、被告、カワサキの三者間では、単に注文書・注文請書を交わすことにより、それぞれ各工事代金に相当する約束手形を振り出して、カワサキに金融を供与することが目的とされていたに過ぎないと認められるから、原告の右主張は採用できない。

3  原告は、本件契約は、春日、日進の各スーパードーム工事と同様に、原被告にとって売上実績を計上することを目的に、帳合いによって行った介入取引であり、単なる融資目的の契約ではないと主張する。

しかし、甲第二一、三七号証、証人稲山敏則、同田中良治、同河崎省三、同河崎英五の各証言によると、本件契約は、原被告から介入取引を依頼した春日、日進の各スーパードーム工事と異なり、カワサキの資金手当が切迫した状況下で、同社から初めて資金援助を依頼されて成立した本件循環取引の一環として原被告間で締結されたが、資金繰りに窮するカワサキ振出しの約束手形は、原告が受取人として取得している事実が認められる。

そうすると、本件循環取引において、原告は、資金繰りに窮したカワサキが倒産する危険を負担しなければならないという、被告よりも不利な地位に自ら立っていると言えるのであり、原告が被告と本件契約を締結したのは、売上実績を計上することよりも、従前、密接な関係を有していたカワサキが資金繰りに窮していたのを救済するために融資することが主目的であったと認められるから、原告の右主張は採用できない。

三  民法六四一条に基づく解除の可否

1  原告は、本件契約が循環取引であっても、当事者が法律構成として請負を選択した以上、その法的形式を尊重して法的効力を判断するべきであり、原告が、請負契約である本件契約を、注文者として民法六四一条に基づき解除できると主張する。

よって検討するに、前示のとおり、(1) 本件循環取引に介入した原告と被告は、前原の新築工事に関わる作業等を一切予定しておらず、カワサキに融資する目的で、約束手形を交付する原因として、カワサキ・原告・被告の三者間で循環した請負契約の形式をとることにしたのであって、右三者間では、当初から、カワサキが岩永組から請け負った前原の新築工事をカワサキのみが自ら施工し、その工事代金をもって、カワサキが原告に振り出した約束手形を満期日に決済することによりカワサキに対する融資の決済を完結することを予定したもので、かかる事情は右三者とも了知していた。(2) 被告は、原告から被告への平成九年一月一七日付け注文書(甲第九号証の一、二、乙第一、二号証の各一)を信頼して、右注文書に従い原告から本件各手形が振り出されて決済されることを前提として、カワサキに融資する目的で、同月二一日に、合計金額一一億九一七一万円の被告手形七通を振出交付している。

また、(3) カワサキが右融資を返済できない場合に、同社振出手形の受取人である原告に代わって、被告が、それにより生じる損失を負担するとの合意が、右三者間でなされていたとの事実は認めることができない。(4) そして、本件契約の目的がカワサキに金融を供与することにあったことからすると、原告から被告、被告からカワサキにそれぞれ振り出された各約束手形が割引、決済等されたことによりカワサキに金融が供与されているから、本件契約の目的は既に達成されたといえる。

2  以上によると、本件循環取引において、カワサキが倒産する危険は本件契約の締結を主導した原告において負担することが予定されていたと認められ、カワサキが、前原の新築工事を施工したかどうかは、単にカワサキが原被告から受けた融資の返済を予定どおり実施できるかどうかという問題に過ぎないから、請負契約の内容である前原の新築工事の実行が、本件契約の本質的な要素になると認めることはできない。

そうすると、たとえ、被告が原告との間で、カワサキに融資するため、本件契約において前原の新築工事の請負契約という法形式を採用することに合意していたとしても、融資目的である本件契約の締結を主導し、カワサキが倒産する危険を負担することにした原告には、既にカワサキに対する融資を実行した被告に対し、契約の形式上の目的とされた工事が施工されないことを理由として民法六四一条による契約解除権が生じることはないと解するのが、本件契約を締結した当事者である原被告間の合理的な意思解釈であると認める。

なお原被告間では、平成九年一月一七日に、京都及び鹿児島の各新築工事についても、循環取引契約が締結されていて、右各工事はカワサキにより現実に施工されているが、そのことによっても、現実に施工されていない前原の新築工事を利用して融資することを目的とした本件契約についての右判断は左右されない。

したがって、原告は、カワサキが前原の新築工事を施工しないことを理由に、民法六四一条により本件契約を解除することが出来ず、これに反する原告の前記主張は採用できない。

3  原告は、本件契約は、被告が主導して行ったもので、原告がカワサキに金融を受けさせる意図で行ったものではなく、被告がカワサキとの間で、右介入取引と異なる意図を有していたとしても、事情を知らない原告には、対抗できないと主張する。

よって検討するに、甲第二一、二二、三七号証、乙第二二号証、証人稲山敏則、同田中良治、同河崎省三、同河崎英五の各証言、及び後記各証拠によると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告の各担当者は、平成九年一月当時、原告がカワサキに約一一億円の債権を有していたので、カワサキが倒産すると原告も少なからず影響を受けることから、カワサキに金融を受けさせる必要があると考えていた。

(二) 原被告が介入することになった請負契約の対象物件は、被告が関与することなく、原告とカワサキの各担当者間で決定し、原告は、本件各手形を振り出す前に、カワサキに受注計画書を作成させている。また、原告は、被告に対して、前原、京都及び鹿児島の各新築工事の請求書の記載方法について指示を出している(乙第一一ないし一四号証)。

(三) 原告は、平成九年八月三一日、カワサキとの間で、同年五月一二日付け名鉄千住ゴルフプラザ塗装工事請負契約に基づき、同年八月三一日を支払期限とするカワサキの原告に対する右工事代金相当の一二六〇万円の債権と、未だ着工していない前原の新築工事に関する原告のカワサキに対する債権を対当額で相殺する旨の契約を締結した(乙第一五号証)。

(四) 原告は、カワサキが本件循環取引に伴い振り出した各約束手形の支払期日を平成九年九月三〇日まで猶予することを認め、その利息として四三五万二四七七円の手形を徴収し(乙第一六号証、第二〇号証の一ないし三)、同年一〇月七日、カワサキに対し、既に提出させていた同年八月四日付け資金計画書を変更して新たな資金計画書を提出するように求め、金融機関と同様に担保の積み増しを検討している(乙第一七号証)。

右事実によると、原告がカワサキの資金関係に積極的、主体的に関わっていて、本件循環取引は、原告が主導的にカワサキに金融を受けさせる意図で成立させたものであり、被告は、カワサキと原告の要請により、本件循環取引に介入して、本件契約を締結したものと認められるから、原告の前記主張は採用できない。

4  以上によると、原告が、本件契約を通常の請負契約であることを前提として、民法六四一条に基づき解除することは、原被告間の合理的な意思に反して認められないから、原告の主位的請求(請求原因1)は理由がない。

四  不当利得の成否

1  法律上の原因を欠くことについて

(一) 原告は、仮に本件契約の解除を主張できないとしても、原因関係が解消され不存在となっているから、被告に対し、不当利得返還請求権を有していると主張する。

よって検討するに、前示のとおり、原被告が本件契約を締結した目的は、原告から被告、被告からカワサキにそれぞれ各約束手形を振り出して、カワサキに金融を供与することであり、その方法として、請負契約の形式をとったものである。そうすると、原告は、カワサキに融資を実行するため、本件各手形を被告に振り出したものだから、本件各手形の原因関係が不存在であると認めることはできない。

(二) 原告は、本件契約と不可分一体である岩永組とカワサキの請負契約が解消されたことから、本件契約における手形振出行為の原因関係も解消されたと主張する。

よって検討するに、前示のとおり、本件契約によって被告を介してカワサキが得た融資の原告に対する返済方法として、カワサキが岩永組から、前原の新築工事の施工により取得する請負代金を引き当てにすることが予定されていた。しかし、これはカワサキの返済計画にすぎず、また、岩永組は本件循環取引の当事者ではなく、岩永組とカワサキ間の右請負契約は、本件契約とは別個のものと認めることができる。その他、岩永組とカワサキ間の右請負契約が、本件契約と不可分一体であると認めることができるような特段の事情を認めることができない。したがって、原告の右主張は採用できない。

2  利得について

前示のとおり、本件循環取引に基づき、被告は、原告から、本件契約金を含んで平成九年七月三一日までに本件各手形金として合計一一億九六八六万円の支払を受けているが、他方、被告は、カワサキに対して振り出した合計金額一一億九一七一万円の被告手形七通を、右同日までに決済している。

右事実によると、被告に、本件各手形金の合計一一億九六八六万円の取得により、原告主張の利得があると認めることができない。もっとも、被告には、原告から取得した金員とカワサキに支払った金員の差額として五一五万円が存すると認められる。

しかし、本件循環取引は、カワサキに融資する目的で、原告が主導して行ったもので、原告も、被告に支払った本件各手形金を超える合計一二億〇二〇一万円の約束手形の振出をカワサキから受けていたことや、本件循環取引の対象とされた京都及び鹿児島の各新築工事は現実にカワサキによって施工されていることからすると、右差額五一五万円は、本件循環取引により被告が経費等として取得できる金員と認めることができ、披告が、本件契約により不当に利得したと認めることはできない。

3  以上によると、原告に不当利得返還請求権があると認めることはできないから、原告の予備的請求(請求原因2)も理由がない。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、被告の抗弁について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水谷正俊 裁判官 佐藤真弘 裁判官 今泉愛)

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